読んだ本×1冊

  • 長谷敏司『あなたのための物語』(301p)
    • 〜P301。読了。
    • 帯の「イーガン、チャンを経由し 伊藤計劃に肉薄する」っていう文句に「SFファンの好きな名前並べただけじゃねーか!そういう(ry」と思ったりもしたけど、帯が言ってることは間違ってなかった。作中に登場する「ITPテキスト」はイーガンの『順列都市』『ディアスポラ』に出てくる電子化人間に関するテクノロジーに良く似ている。文章の重みもなんとなく伊藤計劃っぽい(『ハーモニー』しか読んでないけど)。テッド・チャンとの類似性はあんま読み込んでないから良く分かりません。ともあれ、今の日本で受容されているSFシーンの最先端っぽさがすごくある小説だと思う。
    • イーガンの『順列都市』『ディアスポラ』では、人が電子化された後の世界を描くことに関心の重点があるので、多少の電子化されることへの葛藤はあまり描かれない。この話では人・人類が電子化される前に*1持つであろう葛藤が主眼で、それが主人公の死を通して描かれている。だからイーガンっぽい設定だけどもイーガンとはちょっと違う。
    • そして死を中心に扱っている小説に似つかわしく、描き方がとても重厚。主人公の病状がどんどん悪化して精神的にも苛まれていくという重苦しい展開が続くが、書いていることが重くて、途中で読むのを止めるのが悪い気がして、結果的に読み始めると読むスピードは落ちなかった。
    • 重苦しい展開のなか、《wanna be》の純粋な献身は救いだった。それだけに《wanna be》がサマンサにホニャララした後の展開で、最終的にホニャララっとなったときは胸が苦しかった。個人的には死に向かう主人公と同じくらいに、《wanna be》にも救いがあってほしかった*2ので、《wanna be》のホニャララのシークエンスと5章の順番は逆にならんかと思ったりもする。
    • 8,9点。5章だけ微妙。ちょっと勝手過ぎる。でも全体としてかなり読み応えがあるし、人間は誰もが死ぬので、その意味で誰にとっても読む意味がある小説だと思う。いや、ほんとにいつ余命半年って言われてもいい生き方をしなきゃいけない。もっと言えばいつ死んでもいい生き方をしなきゃいけない。最近の個人的な事件もあったのも原因だけど、その思いがこの本を読んで増幅された。
    • 次に読むのはコニー・ウィリス『リメイク』(271p)。アステアみたいにステップ踏んで!

*1:ディアスポラ』的に言えば「移入」する前に

*2:別に《wanna be》自身は自身の運命に救いの無さを感じていない。「救いがあってほしい」という見方は傲慢かも。でも《wanna be》を擬人的に捉えることは難しいし、擬人的に捉えるなら《wanna be》の行き着く先には救いがあるといえるのかどうか…。