読んだ漫画×1冊、観た映画×1本

  • アラン・ムーアデイブ・ギボンズウォッチメン
  • ウォッチメンザック・スナイダー/2009年
    • ほぼ並行して読み終えた/観終えたのでいっしょに感想。点を付けたら漫画が8,9点、映画が8点。
    • 映画版は漫画版を下敷きに漫画版をアレンジして成り立っている訳だけど、そのアレンジの手が漫画版の美点になっている部分にまで及んでいるにも関わらず漫画版の本質は損ねること無く成立しているのが映画版のスゴいところ。以下、漫画版・映画版に共通する美点、変更された点・その効果を記述。
    • 共通する一番の美点は映像表現・記号表現の巧みさ。同じアングルやモチーフの重ね合わせがわざとらしいくらいに繰り返されて、各要素がダブルミーニング、トリプルミーニングを持つような構造を持っており、それらのイメージが、偽りの平和は結局は長続きせず振り出しに戻るというメッセージを強めることに貢献している。作品のメッセージ自体はあんまり似てないけど、物語を強めるために作者によってたくさんの仕掛けが施されていて、その狙いを掴むために読み返したくなるような作りをしているという点では『夕凪の町 桜の国』の遠い親戚といってもいいかも。*1
    • このような作品の軸は残りつつ映画化するにあたって変更が施された訳だが、その変更を大きく2つにまとめると以下の通り。
    • エピソード・説明をはしょることによる物語のスピード化
      • 映画では話の本筋に直接関わって来ない部分が大胆にカットされており、漫画に比べて圧倒的にスピード感があって爽快。逆に漫画は「そこまで別に知りたくねーから」というところまで丁寧に説明していて、正直読むのに骨が折れる。冗長とも言える。ただ、カットのせいで映画版ではロールシャッハの正体のヒントが少なくなっているし、また、漫画で詳しく説明されている細部がないせいで、原作読み込んでた勢の中には物足りなさを感じる人もいるかも。
    • キャラクターがスタイリッシュに
      • 各ヒーローのフォルムがスタイリッシュになった。これは話のカット以上に大胆なアレンジだと思う。というのは、漫画版ではヒーローがあまりカッコよく描かれない(ナイトクロウとか普通に中年のおっさんだしね)ことで、逆にいい年こいたおっさんがコスチュームを着て闘うことの滑稽さが前面に浮かび上がっており、それが味になっているという側面があったから。漫画版はこのような視点を持つことでアメコミの中でも特定の位置を占めていたわけで、そこに手を加えるのは勇気のいることだったと思う。アクションシーンもいくつか追加されており、漫画でいまいちヒーローとしての凄味・カッコよさが伝わらなかった部分が補強され、カリカチュアとしての側面が弱まるのと引き換えにストレートにヒーローのカッコよさを強調できている。
    • かくして、漫画版と映画版では共通する美点がありつつ、それぞれに背反する性質の美点も存在しており、まさにいずれアヤメかカキツバタ。甲乙付けがたいが、個人的には漫画版でのDr.マンハッタンの時間の感じ方の表現や構図の取り方の妙を重視して漫画の方が高評価。つーか、一般的に言って映画より漫画の方が好きだから漫画の方が高評価、といっても差し支えないかもしれん。
    • 来月にアラン・ムーアフロム・ヘル』上下巻が出るという…。お金…。

*1:読み返しという視点からみたら、Dr.マンハッタンのトラルファマドール人設定はかなり有効な設定。